山の人びと ~移住者~



ナカシマさんご夫妻(oriori店主)

東京都→富士町に移住

富士町の人に惹かれて移住を決意。世代を超え、みんなが集まるお店にしたい


富士町・古湯温泉街入り口に佇む「古道具・洋裁・喫茶 oriori(オリオリ)」を営むナカシマさんご夫妻。

orioriさんをお目当てに県外から訪れるお客さんも多く、古湯の新たなスポットとして人気です。ご主人は佐賀市、奥さんは千葉県出身のお2人。数々の出会いが富士町でお店を開くきっかけになったようで…。

 

移住を考えたきっかけを教えてください。

“古道具のお店をしたい”と漠然と考えていた時に、ふらっと立ち寄った都内の移住支援センター(認定NPO法人 ふるさと回帰支援センター)で、佐賀県のスタッフの方に出会いました。その方がお店を始めるならと佐賀県の3つのエリアを紹介してくれて、その中に佐賀市富士町が入っていたのです。

 

そして、その3つのエリアを実際に訪れたというお2人。

 

富士町以外のところは町の紹介がメインだったのですが、富士町をアテンドした方が、スポットだけでなく地元の方もたくさん紹介してくださって。古湯の雰囲気だけでなく、住んでいる人も良いなと富士町に惹かれました。

 

店舗はどうやって決められたのですか?

空き店舗を紹介してもらったのですが、初めてこの物件を見たときは、私たち2人でお店をするには大きすぎると思いました。でも、地元の方に紹介してもらった工務店さんが色々と考えてくださって、自分たちが思い描いていた以上のお店を形にしてくれました。

 

店内には富士町の自然を感じられる大きな窓があり、開放感もたっぷり。ハイセンスな古道具やアンティークの品々に心が躍ります。一角には洋裁工房を備え、奥さんが古着や着物の帯などを使いアップサイクルの作品を製作しています。

 

実際に富士町で生活されてみていかがですか。

人がとても温かいです。地元のおばあちゃんたちもお店に寄ってくれます。

雪がすごく降った日、お客さんは誰も来ないかなと思いながらもお店を開けていたのですが、そしたらご近所の人たちがコーヒーを飲みに来てくれて。すごく嬉しかったです。⼟⽇に区の⾏事がある時は、個々の用事や事情も理解し合いながら取り組んでいます。温泉街でみなさん商売をされていることもありますが、すごく気遣ってくれます。

買い物はどうされていますか。

奥さん:道を下って「そよかぜ館」(道の駅⼤和)によく買い物に⾏っています。仕事が忙しい時も、近くにスーパーがありますし、今は宅配などのサービスも充実しているので便利です。

 

暮らしてみて困ったこと、驚いたことはありますか?

奥さん:虫が大きくてビックリしました(笑)。あとは、草がぼうぼう生えるので、時期によっては草むしりが大変です。交通手段は車がメイン。私は車の免許を持っていなかったので、移住してから教習所に通い、お店がオープンするまでの数か月間で車の免許を取得しました。

 

これからの夢やワクワクしていることを教えてください。

特定の世代だけでなく、3世代、4世代と世代を超えてみんなが集まれるお店を目指しています。今年の3月には、orioriの3階のギャラリースペースを使用して、佐賀市のフォトスタジオの方が行う家族写真や七五三の撮影会を予定しています。そんな風に、家族をつなぐイベントもこれからはしていきたいです。

取材時:2023年2月

応援メッセージ

“自分探し“をするために田舎に来るのではなく、したいことを見つけてから移住するのがマストです! そしたら周りの人たち(地元の方)が応援してくれたり、反対してくれたり、いろんな意見をくれます。私たちの時もそうでしたが、反対意見もすごく愛のあるものでした。まずは、“自分のしたいこと”を考えてみるといいかもしれません。


ヤマグチさんご夫妻

佐賀市中心部→富士町に移住

「ONとOFFのメリハリができました!休日をゆっくりと過ごせます」

2023年1月末、富士町に移住されたばかりのヤマグチさんご夫妻。旦那さんは、学生時代から“山ぐらし”に憧れがあったようで、空き家バンクで理想的な家にやっと出会えることができたといいます

 

移住を考えたきっかけを教えてください

旦那さん:友達が北山(佐賀市富士町)に住んでいて、家に遊びに行ったり、泊まったりしていたので、学生の頃から山ぐらしに憧れていました。

 奥さん:私は嬉野市の田舎に住んでいたのですが、子育てをするなら自分が生まれ育ったような自然に囲まれた環境がいいなと思っていました。

そんな思いを抱きながらも、仕事の関係で佐賀市中心部に住んでいたというお2人。結婚後も、理想の家になかなか出会えなかったそうですが、空き家バンクで現在の家を見つけたといいます。

 

家を決めた理由を教えてください

きれいな外観を見て、すぐに空き家バンクに利用登録を行いました。自分で野菜を育ててみたかったので、畑付きというのもポイントでした。しかも、納屋もついていて(笑)。

空き家見学会で、家の中を拝見して、家主の方が丁寧に住まわれていたのがすごく分かりました。

 

暮らしてみていかがですか?

すごく充実しています。ON(仕事)とOFF(休日)のメリハリができました。ここに帰ってくるとすごく時間がゆるやかで、休日をゆっくりと過ごせます。家族が遊びに来てくれたのですが、「時間を忘れる」と言われました(笑)。以前住んでいたところは、利便性は良かったのですが、夜はうるさくて。今は熟睡できます。

 

通勤、買い物などはどうされていますか

通勤は2人とも車です。年明けに雪が積もった日がありましたが、スタッドレスタイヤに交換していたのでその日も通勤できました。通勤の遅れも特にありませんでした。

買い物は、休日に「まっちゃん」(三瀬村の直売所)や、「しゃくなげの里」(富士町のダムの駅)に行っています。日用品は、仕事帰りにお店(佐賀市中心部)に寄ったり、ネットで注文したりしています。以前は、オートロックのアパートに住んでいたのですが置き配ができなくて…。今は置き配してもらえるのも嬉しいです。

 

実際に暮らしてみて困ったこと、驚いたことはありますか?

旦那さん:ご近所の方々に、たくさんの野菜やお手製のジャムをいただきました。佐賀市に住んでいましたが、今までそんなご近所付き合いをしたことがなくて。人の温かさに感動しました。

奥さん:困ったことはまだ思いつかないのですが、強いていえば、近所にお店がないことでしょうか。ただ以前は近くにお店があったので、無駄な買い物も多くて。今はそんな出費がなくなりました。

 

これからの夢やワクワクしていることを教えてください

旦那さん:畑を始めたいと思っています。じゃがいもを少し植えたのですが、ご近所の方がほかの野菜を植える時期も教えてくれて。とても親切にしてもらっています。

 奥さん:子どもが生まれたら、庭に木を植えたいと思っています。木にあたたかく見守られながら、子どもの成長を感じたいです。

取材時:2023年2月

応援メッセージ

「移住する」ということに対して、地域の皆さんに受け入れてもらえるだろうか、住みやすいお家づくりができるだろうか、山での生活に慣れることができるだろうか…と不安や分からないこともたくさんありました。 ですが、市役所の方が親身に寄り添ってくださってスムーズに移住することができました。地域の皆さんにも、温かく迎え入れていただきました。本当にありがたいです。 “自然豊かな場所で子育てをしたい”“穏やかに楽しく過ごしたい”という夫婦2人の願いが叶い、充実した日々です。一緒に山暮らしを楽しみましょう!


ナベシマさん

糸島市→三瀬村に移住

“ポツンと一軒家”ではありませんが(笑)、趣味と利便性が叶う家が見つかりました

キャンプと釣りが好きというアウトドア派のナベシマさん。理想は、“ポツンと一軒家”だったそうですが、趣味と通勤に最適なマイホームを見つけることができたようです。

 

移住を考えたきっかけを教えてください

糸島市に移住し20年ほど住んでいたのですが、家が密集していて、カーテンを開けると人目が気になり…。もっとゆとりのあるところに住みたいと考えるように。また、母が貸農園で畑を借りていたのですが、車で10分ほどの場所にあり、水も持ち込まないといけなかったので、畑付きの家を探していました。

大切に育てられた植物も糸島市から三瀬村に引っ越し。柑橘類やハーブ、ローリエなどバリエーション豊かな植物が庭を彩っています。

 

 

家庭菜園ができるように畑作りを行うナベシマさん。
家庭菜園ができるように畑作りを行うナベシマさん。

 

家を決めた理由を教えてください

他の自治体も含め、ネットで空き家物件を随時チェックしていました。そこで、現在の家を見つけて、空き家見学会に参加。外観も室内もきれいで、畑付きだったのが良かったです。近隣の家との距離も、ほどよく離れていたのも決め手になりました。国道に近い場所でしたが、現実的なこと(利便性)を考えるとココもいいかなと。三瀬村には変わりないので。

 

暮らしてみていかがですか?

他のエリアですが、ちょうどニュースで移住のトラブルが取り上げられていたので、地元の方に受け入れられるのか不安でしたが、いざ住んでみるとみなさんフレンドリーで。とても住みやすくて気兼ねなく過ごしています。また、子どもたちが登校時に挨拶してくれるのも嬉しいですね。以前のところでは、そういったことがなかったので心が和みます。

 

通勤、買い物などはどうされていますか

車通勤を予定しています。買い物は、「まっちゃん」(三瀬村の直売所)や、「三瀬温泉 やまびこの湯」にある物産館に行っています。大和町にあるイオンモールやディスカウントストアで買い溜めをすることもあります。徒歩圏内にコンビニがあるので、必要な時は利用していますよ。

 

実際に暮らしてみて困ったこと、驚いたことはありますか?

困ったことは、住んでから水もれをしていることが分かり修理しました。やっぱり暮らしてみないと分からないものですね。あとは12月初めから住み始めたのですが、翌年の1月に積雪になりまして。まだスタッドレスタイヤをつけていなかったので、車で外出できず。近所にコンビニがあったので歩いて買い物に行ったり、兄に食料を運んでもらったりしました。

驚いたことは、お風呂の水質です。調べたところ近くの温泉施設の泉質と変わらなくて、自宅でプチ温泉気分を味わっています(笑)。

 

これからの夢やワクワクしていることを教えてください

学生時代からキャンプが好きなので、これからは気軽にキャンプできるのが嬉しいです。三瀬村にはキャンプスポットがたくさんあるので、行きたい場所も、もう目星をつけています(笑)。海釣りも趣味の1つですが、これからは川釣りに挑戦しようかなと思っていますよ。

取材時:2023年3月

応援メッセージ

人がいないような山奥に住むのがずっと理想でしたが、今のような国道に近い場所での生活に満足しています。こだわりすぎず視野を広げて良かったです。ここでも十分、自然を感じられています。こんな“山ぐらし”もアリですよ!


マーティンさん

ブータン→富士町に移住

「お山のコミュニティが魅力的!まちとは違う楽しみがココにあります」

2021年8月に、築100年以上の古民家を購入したマーティンさん。流暢な日本語と気さくな人柄で、地元の人たちともファーストネームで呼び合う仲です。自然、温泉、人をこよなく愛するマーティンさんに“山ぐらし”について伺いました!

 

移住を考えたきっかけを教えてください

ブータンの大学で講師として教えていた時に、昔から親しみのある日本で仕事を探していました。そして、福岡にある再生可能エネルギーの会社に就職が決まり、九州で住まいを探すように。都会に住むのはイヤだったので、インターネットで“空き家”を検索して、七山(唐津市)や北九州市など福岡に通勤できる場所で空き家を見て回りました。その中で佐賀市の中山間地域で暮らす人たちと会う機会があり、移住者間のコミュニティがすごく良いなあって。ここで暮らしたいと思いました。

 

 

 

現在、再生可能エネルギー発電の開発などを行う会社でシステムエンジニアとして働いているマーティンさん。自宅の屋根の一部に太陽光パネルを設置しており、電力の8割を太陽光で発電した電気でまかなっているそうです。

 

お部屋の⼀⾓には、日本やブータンなどで集められた仏像のコレクションが大切に飾られていました。
お部屋の⼀⾓には、日本やブータンなどで集められた仏像のコレクションが大切に飾られていました。

家を決めた理由を教えてください

美しい景⾊と近くに温泉があることが気に入りました。10年ほど空き家だったそうですが、庭はオーナーさんが定期的に手入れをされていて、家は修繕が必要なところもありましたが本体(梁など)が丈夫で、良い印象を受けました。

 

暮らしてみていかがですか?

間違いなく良い場所です。みんな良い⼈ばかり。週末に、地元の農協組合の⼿伝いをしているのですが、先⽇は⽥植えに参加しました。地元の⼈や移住者、年齢にとらわれず、さまざまな⼈たちと交流をしています。

 

 

通勤、買い物などはどうされていますか

仕事は主にテレワークです。オンラインの会議も問題なくできています。会社(福岡)に出勤する時は車です。海外に出張する時は、古湯から大和町までバスで移動し、大和町から高速バスに乗り空港まで行っています。

買い物は、英龍温泉(古湯の温泉)に行った時に1階の生鮮売り場で買ったり、近くのAコープ(スーパー)に寄ったりしています。DIYをしているので、佐賀市内にあるホームセンターに材料を買いに行くこともあります。

 

実際に暮らしてみて困ったこと、驚いたことはありますか?

家のことで言うと⾬もりがありました。驚いたことは、⽔がすごく美味しいことです!東京出張の時に水を飲んだのですが口に合わず…。ここの⽔の美味しさを改めて実感しました。

 

これからの夢やワクワクしていることを教えてください

家のリフォームです。部屋の改装だけでなく、⼟間にヨーロッパで主流のレンガでできた薪ストーブを⾃分で作りたいと思っています。このストーブなら、⽕を消した後も十数時間熱を保てるので、冬も暖かく過ごせます。

あとは、家の裏にある⼭をいろいろと構想中です。山には、桃やかりんなどの果樹があるのでそれらを活かしながら、落葉樹やナッツの木などを入植し、和と洋の植物が混在する森のガーデンを作りたいと思っています。また、富⼠町で林業をしている移住者の⽅と一緒に、日の出を遮る高い杉を伐採する予定です。もちろん、その杉は家で再利⽤します。

 

取材時:2023年4月

応援メッセージ

ぜひ多くの方に来てほしいです。中山間地域は人口が減少していますが、魅力的なコミュニティがここにはあります。まちとは違う楽しみがお山にはありますよ。


ムラカミさんファミリー

福岡県→富士町に移住

「田舎暮らしに憧れて移住。富士町はいろんなことを叶えられる場所です」

2008年4月に富士町に移住されたムラカミさんファミリー。千葉県出身の旦那さんと福岡県出身の奥さん、子どもたち4人の6人家族です。「田舎暮らしをしたい」と各地を巡り、出合ったのが年代物の“茅葺(かやぶき)のお家”でした。富士町歴15年、富士町大好きファミリーに富士町の魅力も伺いました。

 

移住を考えたきっかけを教えてください

お互い都会で育ったせいか田舎に強い憧れがあり、結婚当初から「サザエさんみたいな家に暮らしたい」と新築より中古の家がいいなと思っていました。特にエリアは決めずに、夫の職場が福岡にあったので、車通勤できる場所で家をリサーチ。また地域のコミュニティ(集落)の中で子育てをしたいというのもあって。近所の人たちが一緒になって子どもたちの成長を見守ってくれるそんな田舎が理想でした。

家を決めた理由を教えてください

 当時は、ネットで物件を見られる感じではなかったので、地域の不動産屋さんを何軒も回りました。そんなときに、新聞の投稿欄に「田舎暮らししてみませんか?」という言葉とともに、現在の家が売りに出されていて。持ち主の方によると、自分が住めなくなったので家を売りたいということでした。地元の方の話によると、富士町にある国の重要文化財「吉村家」と築年数が半年ほどしか変わらないという年代物の家。想像以上の古民家でしたが、お庭の感じも含めてすごく雰囲気が良くて購入を決めました。

改修や雪の関係で、住むまでに1年ほどかかりました。生活するうえで水回りは大切なので、台所はシステムキッチン、お風呂場はユニットバスにリフォーム。子どものことや、家事のことを考え、安全性や利便性を重視しました。あとは畳と照明を替えたぐらいです。

また我が家ならではですが、10年に1回屋根のトタンを塗り直しています。茅が濡れると大変なので屋根のメンテナンスはとても重要です。 

暮らしてみていかがですか?

富士町に移住して良かったと心から思います。子どもたちも富士町が大好きです。近所の方が子どもたちを温かく見守ってくれるので安心して子育てができます。子どもたちは「近所のおばあちゃんがくれるお漬物が世界一!」というくらい大好物。環境で言うと、美しい自然はもちろん、星空もすごくきれいで。家と一緒に星空も買った気分です(笑)。

 

通勤、学校、病院、買い物などはどうされていますか

夫は現在も移住する前と同じ職場(福岡)に車で通勤しています。長距離運転が苦ではないので。冬はスタッドレスタイヤに履き替えて、積雪の日は通勤時間をずらすこともあります。子どもは大学生、高校生、小学生がいるのですが、大学生の長男は佐賀市で1人暮らし、高校生の長女は昭和バス、小学生2人はコミュニティバスで通学しています。

買い物は、宅配サービスをはじめ、近くのスーパーや魚屋さんを利用するのですが、子どもたちが「明日、コンパスがいる!」と言ったことがあって、その時は大和町まで車で下って慌てて文房具を買いに行きました。

病院は、富士町の病院や小城市の小児科を利用しています。

実際に暮らしてみて困ったこと、驚いたことはありますか?

ここ数年は大雨がひどくて豪雨災害が心配です。裏が山なので豪雨の際は近くの公民館に避難しています。雪は移住する前から聞いていたので積雪しても想定内。冬はスタッドレスタイヤに履き替えています。

 

これからの夢やワクワクしていることを教えてください

富士町の子どもたちに「富士町ってめちゃ楽しい!」と思ってもらえるように、まずは私たち大人がワクワクしている姿を子どもたちに見せられたらと思っています。現在、私が地域でいろいろと活動を行っているのもそんな気持ちからです。「こんなことやりたい!」と意見を出せばいろんな方がサポートしてくれます。移住者と地元の人たちとの隔たりがない。富士町はいろんなことを叶えられる場所です。

 

取材時:2023年11月

応援メッセージ

現地(移住先)に行き、地域の人たちの声を聞くことが大事だと思います。私たちも移住前から何度も足を運び、ご近所の方や近くにあった店の方に話を聞きました。地域性があるので実際に行ってみないとネットでは分からないことも多くあります。現地でその地域を感じてほしいです。


ユキさん&ステファンさん

佐賀市→富士町に移住

「山羊と暮らし、チーズと畑を作り、森を創る。私たちの夢を形にしていきたいです」

山暮らしに憧れる中、イタリアで山羊(ヤギ)のチーズに巡り合い運命を感じたユキさん。2017年に富士町に移住し、山羊の飼育からはじめ、2021年に山奥でチーズ工房を備えたお店をご主人とオープンします。フランス人の夫・ステファンさんとの出会いもなんと富士町。山での数々の縁が生んだユキさんの移住ストーリーを紹介します。

 

移住を考えたきっかけを教えてください

「東京で転職し、その仕事の関係で佐賀にUターン。その後、退職をしてアルバイト生活をしながら “自分のやりたいこと”を書き出していました。そんな時期に、東京の一流企業を退職してご家族で三瀬村に移住し養鶏場を営んでいる方に出会ったのです。“山暮らしいいな。地球とともに生きたい”と憧れるようになりました。」

しかしながら、山の中でできる仕事がない。山暮らしを模索しているユキさんに運命の出会いがあります。

 

「その三瀬村の方と2週間、イタリアにアグリツーリズム(農場や農村で休暇・余暇を過ごすこと)に出かけ、車でローマからミラノをまわりました。そこで山羊のチーズに出会って。もともとアルプスの少女ハイジの世界に憧れがあり、自分の名前も“ゆき”(ハイジの飼っていた山羊の名前)で山羊座。“これだ!”と思いました。帰国後、どうやったら山羊のチーズ作りができるのかと考え、岡山でチーズ工房をされている方のところに行ったり、現在、牛乳を仕入れているミルン牧場さんに連絡したりしました。ミルン牧場の横尾社長が興味を持ってくださり、チーズ作りの研修などにも参加させてもらいました。」

 

山羊のチーズに出会ってから数年が経過。その間にも、イタリアを何度か訪れていたユキさん。4回目の渡伊で、ついに一人で山羊のチーズ作りをしている女性のもとで修行ができる機会に恵まれます。

北イタリアのロンバルディア州でチーズ作りを学んでいた頃のユキさん。
北イタリアのロンバルディア州でチーズ作りを学んでいた頃のユキさん。

 「修行先の北イタリアのロンバルディア州では、チーズ作りだけでなく、山羊のお世話やイタリアの家庭料理も学びました。修行後は、“とりあえず山に住んでみよう!仕事をしながらチーズを作ろう”と富士町の古湯へ移住。ちょうど古湯の一軒家に一人で住み始めた女性と出会い、私もそこにシェアメイトとして住まわせてもらいました。」

古湯では、温泉街にある飲食店やアンティークショップ、さらに農園の仕事をかけもちしながら働いていたというユキさん。多忙な生活を送る中、農園の方より空き家バンクの物件を紹介してもらいます。

 

「まだ結婚をしていなかったので、“先に家か~”(笑)と思っていた時に、シェアメイトの友人であるステファンが5日間だけ古湯に遊びに来たのです。古湯で出会って1か月半後にプロポーズしてもらい結婚することになりました。」

 その後、ステファンさんの故郷フランスに2か月間滞在。お互いのふるさとではなく、2人が出会った場所“富士町”で新婚生活を始めるのでした。「古湯が大好きだから」とステファンさんは話します。

お店はどのように始めたのですか? 

「ちょうど知り合いの方に富士町で山羊を飼っている人がいて、その方から2頭譲ってもらい、アルバイト先の農園の方より山羊を飼う場所を貸していただけました。その頃から、チーズ作りだけでなく、チーズ料理のお店を始めようと決意。お店の名前は初めて飼った山羊の名前“ハイジ”からとって“シェ・ハイジ”、フランス語で“ハイジの家”に。最初の頃は店舗がなく、コミュニティカフェなどで地域の方に提供していました。

 ユキさん特製のチーズとイタリア料理、ステファンさんが作る本場フランスの焼き菓子は町外でも大評判に。そして2020年の夏の終わりに、2人は“夢”を叶えるための場所を手に入れるのでした。

 

「富士町で知り合った方に紹介してもらい小さな山を購入できました。もともとは、おばあちゃんが畑をされていた場所だそうです。お店の設計は林業女子会で出会った白石町の女性の方に、建築は三瀬村の大工さんにお願いしました。自分たちでもやれるところはやって、看板はステファンが描きました。2021年12月11日にオープンすることができました。店舗には、厨房だけでなく、チーズとお菓子を作る工房もそれぞれ備えています。」

これからの夢やワクワクしていることを教えてください

「現在ここでは、山羊はクララの1頭しか飼えていないのですが、別の場所にいる山羊たちもいつか一緒に暮らしたいと思っています。また目の前の畑では5種類野菜を作っているのですが、将来はお店で出す野菜をすべて作りたいです。」

 

2頭から飼い始めた山羊は現在11頭に。5月になると春に生まれた子山羊たちがクララのいるスペースに遊びにくるそうです。さらにお2人には夢が…。

 

「裏に山があるのですが、4反(1200坪)の杉を全て切り、新しい森を創りたいと思っています。杉を切ったら栗の木が自生してきたのです。私たちの手で、桑の実、りんご、イチジク、ヘーゼルナッツ、アーモンドなども植えました。山羊と暮らし、チーズと畑を作り、森を創る。私たちの夢を形にしていきたいです。」

取材時:2024年3月

 

・お店の情報はコチラ

・インスタの情報 Instagram  @chez.heidi

応援メッセージ

人との出会いを大切に。諦めずに頑張ってくださいね!


恵良農園 恵良裕一郎さん&五月さん

「“移住”や“農のある暮らし”を考えるきっかけの場になればと思います」

千葉県→富士町に移住

佐賀市富士町で「恵良(えら)農園」をご夫婦で営む恵良裕一郎さんと五月さん。裕一郎さんは福岡県、五月さんは神奈川県のご出身です。移住後に独学で農業を学び、農薬や化学肥料に頼らない農法を実践。恵良さんたちが作りだすおいしい野菜は各地にファンを増やしています。

 

移住を考えたきっかけを教えてください
会社員の頃から「いつか農業をやりたい」と思っていました。2011年に東日本大震災が起きて、「やりたい時にしなきゃ」という気持ちに変わり、農業を始めることを決意。「自分で食べるものは自分で作りたい」と思いました。仕事の引継ぎもあり、すぐに会社を辞められなかったのですが、翌年2012年3月に移住。当時、私は39歳、子どもは小学2年生でした。

家を決めた理由を教えてください

知り合いの方に三瀬村のほうで家を探してもらっていましたが、なかなか見つからず、三瀬支所を訪れた際に「空き家バンク制度」を知りました。そして、富士町なら物件があるとのことだったので、現在の住まいを紹介してもらいました。今まで見た物件がとても古かったので、ココなら住めそうと思いました(笑)。ちょうど3年ほど前にトイレを水洗に改修されていた点も良かったです。ただ屋根の修繕は必要だったので、空き家バンク制度の改修費助成の申請を行いました。今でもお風呂は母屋と別の場所にあるので、雨が降る日は傘をさしてお風呂場に向かっています(笑)。賃貸で3か月間住んだ後、家を購入しました。

幅が車一台分ほどの小道を登ると恵良さんのご自宅に到着。

緑豊かなお庭ではニワトリたちがのびのびと暮らしています。


・農業はどのように始められたのですか?

農業は全くの未経験でした。暮らしながら学んだという感じです(笑)。移住後に、知り合った地元の方たちに農地を貸してもらい、農業を始めるのに必要な面積五反(たん)を確保。農業研修などは受けずに独学で農業を始めました。最初は栽培しやすいピーマンからスタート。農協の方や道行く地元の人たちからもたくさんアドバイスをいただきました。無農薬にしたのは、農薬を体に摂り入れることに私が抵抗があったからです。そしてたどり着いたのが「農薬に頼らない農業」でした。


農薬や化学肥料の代わりに野菜たちに与えるのは、ミネラルたっぷりの塩と糖蜜の発酵液。農薬のように即効性はありませんが、野菜の生育は格段に良くなり野菜本来の甘みを引き出します。私たちの野菜を「おいしい」と言ってもらえるのは、この農法のおかげかなと思います。農業は気候に左右されますし、無農薬ならではの苦労もたくさんしました。イノシシに食べられることもありますよ。

 

現在、恵良農園さんではピーマン、ナス、きゅうり、ミニトマトなどの夏野菜をメインに、年間30種ほどの野菜を栽培。スーパーや飲食店に卸すだけでなく、福岡や関東方面のお客さんに向けて季節野菜の定期宅配も行っています。

暮らしてみていかがですか?

移住する前から山が好きで自然を求めて旅行に出かけていましたが、今は山や温泉がすぐそばにあり観光地に住んでいるような感覚です。里山ですが佐賀市中心部や、福岡にも近い立地も気に入っています。

私たちの集落は区役や祭りなど自治会の行事が比較的多いのですが、そのおかげで自然と地域の輪にも入れました。「三夜待(さんやまち)」という当番の家を順番に回って飲食をする会があるのですが、それにも入れてもらって。集落の人たちとじっくりと話すと、思いやりに溢れていてすごく地域のことを考えているのだなと感じます。実際、大雨で土砂崩れが起きた時は、行政よりも先に重機を持っている人が動いて、住民同士で助け合いました。移住した頃に比べると高齢化が進み集落の活気が減ったのは少し寂しいですね。

 

通勤、学校、病院、買い物などはどうされていますか?

 畑までは車で移動しています。子どもは中学校までは富士町内、高校はバスと自転車を利用し佐賀市中心部の学校に通学していました。病院はあまり行くことはありませんが、富士町や三瀬村の病院に行きます。買い物は、野菜以外の生鮮品は一か月に一回、佐賀市大和町のスーパーでまとめ買いしたり、野菜を卸しているお店で購入したりします。ネットの環境も整っているので利用しますが、本の購入が多いです。

 これからの夢を教えてください。

裕一郎さん:今年で移住して13年目。52歳になり、田舎を紹介できる年齢になったのかなと思います。現在、農業を学びたいという人たちを集めて「農業塾」もしているのですが、「移住」や「農のある暮らし」を考えるきっかけの場になればと思います。

五月さん:宮沢賢治さんのように「農業と文学」を両立したいです。大学では文学部、仕事では翻訳に携わっていたこともあるほど本が大好き。子育てがひと段落した今、本の出版に向けて準備中です。まずは電子書籍で自分の本を出せたらと思います。

 

 

                      取材時:2024年5月

恵良農園さんの詳しい情報は↓ご確認ください!

https://erafarm.thebase.in/

応援メッセージ

借金はせずにやれることから始めたほうがいいと思います。山のひとたちは「個」ではなく「周りの人たち」のために動く、「利他の精神」に溢れた人たちです。そんな風にまちとは違う人の温かさを感じられるのが田舎暮らしのメリットだと思います。